なるほどエージェント

田村 学先生の探究学習ABC

探究学習において大切なことを、
なるほど!エージェントのアドバイザー、田村 学先生にお聞きしました。

田村 学先生 プロフィール

國學院大學人間開発学部初等教育学科教授、文部科学省視学委員。新潟大学教育学部卒業後、1986年4月より新潟県公立小学校教諭、上越教育大学附属小学校教諭、新潟県柏崎市教育委員会指導主事を経て、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官。2015年より文部科学省初等中等教育局視学官として新学習指導要領作成に携わる。2017年4月より現職。著書に『「探究」を探究する』(学事出版)、『授業を磨く』『深い学び』『カリキュラム・マネジメント入門』(いずれも東洋館出版社)など。

田村学先生
探究学習で意識したい3つの行動

 「探究学習」とは、子どもたちが実社会に出た際に、「答えのない課題・問題を自ら発見し、まわりの人と協力しながら解決していく力を育むための学習法」です。探究学習を進めるためには、以下の3つのアクションを意識しておくことが重要です。

その1
Why?How?の問いからはじめる

 探究学習を進めるには、子どもたちの心を動かす効果的な「問いかけ」が大切です。「それは何?(What?)」「それはいつ?(When?)」といった問いは、調べれば単語ひとつで答えが出てきます。一方で「それはなぜ?(Why?)」「それはどうしたらいい?(How?)」という問いは、調べてもすぐには答えが得られないものです。このような「自由に考えを求める問い、答えのない問い(Open Ended Questions)」を少しずつ投げかけることで、子どもは自分の考えを伝えるために自分の言葉で表現できるようになっていきます。問いかけは、ご家庭の食卓でもはじめられる探究学習の第一歩です。まずはここからスタートしてみてください。

その2
探究学習の「4つのプロセス」を体験してもらう

 探究学習の最初のプロセスは、①「課題を設定してもらう」こと子どもたちが興味を持てるような課題や問いへのヒントを与える中で、「これってどういうこと?」「何が問題?」といった具体的な問いが生まれてきます。ここが一番重要です。続いて②「情報を集める」③「情報を整理・分析する」④「まとめ、周りの人に伝えられるように表現する」というプロセスが続きます。

 このように、①に関して②〜③でインプットしたことを④でアウトプットするプロセスをくり返し体験してもらうことで、広い分野に興味を持ち、疑問が発見につながり、考えやアイデアをデザインする技能が育まれます。

 

その3
少し難しいことにチャレンジする

 情報をインプットし、自分の立てた問いや課題の解決法をまとめ、表現してアウトプットする。これが、探究型学習のひとつの目標です。しかし、訓練なしでエベレストに登れる人いないように、誰もがいきなり目標を達成できるわけではありません。

 慣れないうちは大人が子どもに問いのヒントを投げかけたり、アウトプットに向けて「4つのプロセス」をナビゲートすることで、少しずつ思考力や表現力がついていきます。探究学習もHop! Step! Jump!です。 少しずつ難しいレベルにチャレンジし、協働作業でプロセスを進める習慣をつけてもらいましょう。チームでアイデアを出し合ってプロジェクトをやり遂げた体験は、実社会に出たときの貴重な糧となります。

 

探究学習は段階を意識して、例えば以下のようにレベルアップしていきましょう。

Hop期

 探究学習の4つのプロセス(①課題の設定 ②情報収集 ③整理・分析 ④まとめ・表現)をみんなで一斉に学びます。課題やワークシート(思考シート)の決定から表現や発表まで、先生がリードしてあげてください。

 

先生:課題となるトピックや問いを1つ決め、ワークシートも1つ選び、学習をナビゲートします。

子どもたち:みんなで一緒に、4つのプロセスを体験します。

 

●「なるほど!エージェント」を活用する場合:1つのトピック動画を子どもたちと一緒に見て、1つのワークシートを使いながら、具体的に進め方を指導します。

 
Step期

 課題の設定や目的に合ったワークシートの活用など、難しいところだけ先生が力を貸します。後は子どもたちに任せます。何回かやってみて、自信がついたようなら、Jump期に進みましょう。

 

先生:子どもが興味を持ちそうなトピックや問い、使うワークシートを提示したら、子どもたちに決定させ、サポートにまわります。

 

子どもたち:各自(またはチーム)が主体となって、4つのプロセスを体験します。

 

●「なるほど!エージェント」を活用する場合:複数のトピック動画を先生が選び、各自(またはチームで)が選んだものを見たり、問いを選んで、ワークシートに学んだことを表現していきます。

 
Jump期

 4つのプロセスすべてを子どもたちが自由な発想で決定し、進めます。大きな達成感や充実感を味わうことができ、実社会でも生涯役立つ「自ら学ぼうとする力・学ぼうとする意志」が育まれていきます。

 

先生:相談がない限り、子どもたちを見守ります。

 

子どもたち:課題から表現まで、各自(またはチーム)が自由に考え、4つのプロセスを実践します。

 

●「なるほど!エージェント」を活用する場合:資料やヒントとして利用します。そこから各自(またはチーム)が興味のあることを調べて問いを立て、自由な形(動画や音声素材を使って)で考えたことを表現します。

 
探究学習4つのプロセス

 探究的学習における「4つのプロセス」は、どのようにくり返していけばよいでしょうか?

 

4つのプロセス

 探究学習のプロセスは、子ども自身が問いを立て、必要な情報を収集し、それを整理・分析し、まとめて結果を表現するといった一連のプロセスで進んでいきます。このプロセスを体験することで、子どもは、自分の考えを表現する力や問題解決能力、創造性や批判的思考力を伸ばすことができます。

 

4つのプロセス 

 ①課題の設定→好奇心を引き出し、課題や問いを見つけられるようにする

  探究プロセスの最初のステップは、子どもたちが興味を持ったトピックを選び、そのトピックに関連する問題や疑問点を明確にすることです。このプロセスでは、子どもが自ら問題解決に取り組む力を育成するため、自分が興味を持つトピックを選び、調査したい課題や疑問点を見つけていけるよう導くことが重要です。

 

 ②情報収集→情報を、自分での力で収集できるようにする

  次に、選んだトピックについて情報を収集します。情報収集の方法には、インターネット検索、本や新聞記事の読み込み、実態の調査やインタビューなどが含まれます。

 

 ③整理と分析→情報を整理・分析して自分の考えにできるようにする

  子どもは、収集した情報やデータを取捨選択して整理・分析し、結論を導くために重要な情報を選び出します。このステップは、子どもが批判的思考力を養い、統計やグラフなどのデータを解釈する能力を向上させるために重要なプロセスです。

 

 ④まとめ・表現→考えたことを伝わる形でまとめ、表現・発表できるようにする

  子どもは、分析された情報やデータに基づいて、仮説や解決策を考えてまとめ、研究の成果を発表し、他の人と共有します。発表の方法には、レポート、プレゼンテーション、ポスターセッション、グループディスカッションなどがあります。動画やオンラインプレゼンテーション、ウェブ制作などのデジタル技術を用いた発表方法も増えています。

「4つのプロセス」+リフレクション

 

 この4つのプロセスを完了したら、リフレクション(自己評価や振り返り)を促すことも大切です。探究学習におけるリフレクションとは、子どもたちが自分たちの学びを振り返り、今後の学び方について考えることを指します。「今回のスピーチはうまくできたけど、みんなの質問には答えられなかったな。次は答えられるようにしよう」など、今後の表現について考える機会となります。

(なるほど!エージェントのワークシートには自己評価をするルーブリック表が用意されています。こちらの表も活用してみましょう。)

 


「4つのプロセス」のくり返しについて

 探究学習の「4つのプロセス」は、Hop期、Step期、Jump期と、以下のことを意識しつつレベルアップしていくことが大切です。

一定の時間数を確保する

 内容を一度の授業や学習セッションですべて理解することは困難です。一定の時間をかけて学習をくり返すことで、情報をより深く定着させることができます。また新しい情報や視点を取り入れながら、前回の学習と関連付けることで、知識の統合や応用力の向上も促進されます。時間管理や目標設定のスキルを明確にすることで、より効果的に学んでいくことができます。

 

②エリアの同心円拡大を意識する

 「エリアの同心円拡大」とは、探究する対象や範囲を徐々に広げていくことを示します。例えば地域→国内→世界へ」の拡大。自分が住む町などを探究の出発点とし、地域に関連する問題やテーマについて調査・研究を行います。それから国内のより広い範囲に興味を広げ、全国的な課題や比較研究を行うことができます。さらには世界の視点に切り替え、国際的な問題やグローバルな関連性について探究を行うことにチャレンジしていけます。すこしずつ学びのエリアを拡大していきましょう。

③課題の更新を意識する

 

 課題や問いを考える際には、目的や意義のレベルアップを目指しましょう。例えば、「なぜ→どうして→どうする」という順番す。「なぜ」の段階では、問題の発生原因を追求し、考えられる要因を探ることで、より深く理解します。「どうして」の段階では、問題の本質や原因を深く理解し、探究の方向性を明確にし、問題解決に向けた具体的なアプローチを検討します。そして「どうする」の段階では、具体的な解決策を考え、問題解決や目標達成を目指します。最初から「どうする」を考えることは難易度が高いので、課題も少しずつ更新し、ステップアップを目指すことが大切です。

 

④デザイン思考を育てる

 問題を深く理解し、創造性や柔軟性を持った解決策を見つけるためにはデザイン思考が必要です。デザイン思考を育てるためには、「発見→調査→表現」の3つのステップを意識します。最初の「発見」ステップでは、利用者や関係者の視点やニーズを理解し、共感することが重要です。インタビューや観察などを通じて情報を収集し、問題や課題を明確化します。次に、「調査」ステップでは、収集した情報をもとに問題や課題を決めて、解決すべき課題を特定します。最後の「表現」ステップでは調査した問題を解決すべく、アイデアを生み出します。ブレストストーミングやマインドマップなどの手法を使い、多くのアイデアを発想します。子どもは課題や問題を発見し、情報を収集したり整理していくことで探究学習をスタートさせますが、そのプロセスの最終ゴールは、アイデアや解決策を考え、人に伝わるように表現していくことであることを、意識しておきましょう。

 

関連し合う「整理・分析」と「まとめ・表現」

探究学習の「4つのプロセス」のうち、第3の「整理・分析」と第4の「まとめ・表現」は、相互に関連しています。「整理・分析」は情報を整理し、パターンや関連性を見つけるプロセスであり、「まとめ・表現」は整理された情報やアイデアを再構成し、共有できる形で表現するというプロセスです。「整理・分析」を通じて得られた情報をまとめることで人と共有することができ、また「まとめ・表現」することで、より明確な形で情報やアイデアを整理することできると考えると、2つのプロセスを結びつけながら探究学習を行なっていくことが、子どもたちの思考力や表現力を高める上で重要であることが分かります。

 

整理・分析するための思考ツール

思考ツール(シンキングツール)

思考ツールとは、情報やアイデアの整理、可視化をサポートするためのツールです。子どもがアクティブに学ぶための具体的な手立てや方法を助ける道具となります。思考ツールの中には「考えを広げるためのイメージマップ」「順序立てて考えたりまとめるためのステップチャート」「理由づけをしたり、構造的に物事を考えるためのフィッシュボーンチャート」など、多数あります。なるほど!エージェントに用意されている「KWLシートや視覚分析シート」も「考えを見通したり評価する」ための思考ツールです。

思考ツールを用いるということは、子どもには「どう考えたらいいか、枠組みを提供する」ということであり、先生や保護者の方には「子どもが考えるための支援をする手立てを活用する」ということになります。「主体的・対話的で深い学び」を実践する上でも効果的な学習ツールです。

※田村学先生は関西大学の黒上晴夫先生と共に、たくさんの思考ツールを開発・研究されており、全国の学校で広く活用されています。

考えるってこういうことか!「思考ツール」の授業 (田村 学・黒上晴夫著)

まとめ・表現の形式

情報の「整理・分析」を行うことで、複雑な問題を解決する手法やパターンを発見したら、情報を再構築し、伝わる形に表現していくプロセスを体験してもらいましょう。「まとめて表現する」と言っても、このプロセスにはさまざまな形式があるります。以下はその形式の一部です。

①レポートや小論文

子どもたちは、自分たちが取り組んだテーマについて、調べたことや実験の結果、考察や自分たちの見解をまとめたレポートを作成します。レポートや小論文は、レポートの目的によって様々な形式や書式があるため、どのような形式にするか、またどれくらいの字数にするかなどは先生が指示を出します。

②プレゼンテーション

子どもたちは、自分たちが取り組んだテーマについて、スピーチを作成し、スライドやパワーポイント、ポスターなどの視覚的な資料を使って発表を行います。プレゼンテーションでは、簡潔かつ分かりやすい言葉を使い、聞き手に伝わりやすい発表を心がけます。プレゼンテーションで行うスピーチの練習には、なるほど!エージェントの「スピーチシート」を活用することもおすすめです。5ストラクチャースピーチは世界で通用するスピーチフォーマットです。

③ポスターセッション

子どもたちは自分たちが取り組んだテーマについて、研究ポスターにまとめ、パネルなどに貼ったりして設定された会場で他の人に見せます。(探究学習におけるポスターとは、課題研究タイトル、背景や目的、研究方法、結果、考察、結論などがまとめられたものです)ポスターセッションを通じて子どもは見てくれるひとに説明をしたり質問を受け、自分たちの学習内容をアピールすることができます。

なるほど!エージェントのポスターシートは、ポスターセッションで活用する大型サイズの研究ポスターとは異なり、情報を伝わりやすい言葉やビジュアルに置きかえるためのトレーニングとなっています。いきなり大型ポスターを作るのは難しいので、小さな1枚から始めるのもおすすめです。

 
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④グループディスカッション

子どもたちは小グループに分かれ、自分たちが取り組んだテーマについて、意見交換やディスカッションを行います。グループディスカッションでは、自分たちの意見をしっかりと主張し、他の人のアイデアや意見を聞き、参加者同士が相互理解を深め、協調性やコミュニケーション能力を高めることができます。

上記の以外に「動画を作る、ホームページを作る、オンラインプレゼンテーションをする」など、表現にはいろんな形式があります。子どもたちに選択肢を与えることは、彼らの学習意欲を高める効果もあります。自分の意見やアイデアを自由に表現する機会を与えて、主体的な学習や自己成長を促していきましょう。

 

 

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