プロジェクトベース型、課題解決型、どちらのアプローチで探究学習をするにも、「子どもが課題を設定し(最初は先生が提案し)、情報を集め、分析し、結果を発表する」という4つのプロセスは同じです。
ピンクで囲ったプロセス部分を拡大して、詳しく見ていきましょう。
講義型ならばインプット中心ですが、探究型では、得た情報を子どもたちが分析して、自分なりの表現方法でアウトプットすることが重要です。
また4つのプロセスを踏むだけでなく、振り返りを行うことで、新たな課題へと繋ぐことができます。
①課題の設定 テーマに沿った課題や問いを決めます。先生が与えることも、子どもが考えることもできます。
②情報収集 本や新聞、ネットで調べたり、人に話を聞いたりして情報を集めます。
③整理と分析 情報を整理して、分析します。
④まとめ・表現 考えたこと、見つけたことを他者と共有します。
+振り返り 自らの学びを振り返り、次の学びに生かすようにします。
以下、探究学習の基本となるプロセスを、事例とともに見ていきましょう。
今回は小学4年生で探究学習にトライする場合の例を見てみましょう。
子どもがテーマを自由に探してもよいのですが、今回は先生が身近で子どもが親しみやすいテーマをセレクトします。
「町の消防員について」「商店街の活性化」でも、何でもかまいません。今回は仮に、「トマトの栽培」というテーマにしてみましょう。
探究学習をはじめたばかりのレベル1、慣れてきた状態のレベル3では課題の設定の仕方が変わります。
<レベル1>
子どもたちに「トマトの成長過程を絵日記に描こう」と、先生はクラス全体に同じ課題を与えます。
<レベル2>
先生が複数の課題を考え、子どもに選んでもらいます。内容はトマト栽培に関する「答えのない問いかけ」です。
課題1)トマトの味を左右する要因は何だと思う?
課題2)トマトの栽培において、自然肥料と人工肥料のどちらがおいしくなるのかな?
課題3)トマト栽培において、最も有効で安全な病害虫対策は何かしら?
<レベル3>
先生が複数の課題を与え、子どもに選んでもらいます。内容はトマトの栽培と環境問題を組み合わせた「答えのない問いかけ」です。
課題1)気候変動がトマトの生育に与える影響はなんだろう?
課題2)都市のコミュニティガーデンでのトマト栽培のメリットと課題はなんだろう?
課題3)遺伝子組み換えトマトの栽培が環境、経済、社会に与える影響を探ってみよう。
<レベル4>
「興味ある課題や問いを考えましょう」と子どもたちに考えてもらうことができます。
例えば小学生で探究学習を始めたばかりならば、レベル2から始めます。
先生は以下のアプローチで探究学習を行います。
・先生の関わり合いの程度:高(重要事項や使用可能な資料等を共有する)
・目的:「探究学習」の流れを把握してもらう
・問い:子どもたちの能力に適切なものを先生が用意
※KWLシート
課題を選ぶ、あるいは自分で発見するために、KWLシートを活用するのはおすすめです。「トマトを栽培する前、もっと知りたいと思ったこと、発見したこと」などを書き出してもらうことで取り組みたい課題が見つかりやすくなります。
ある児童が「課題1)トマトの味を左右する要因は何だと思う?」という課題を選びました。まずは情報を収集してもらいます。方法論は複数あります。
文献調査→図書館、タブレットで行う
トマト栽培に関する本、インターネット記事を調べていきます。いろいろ調べていくと、味に関係することは土の種類、水やりの頻度、日照時間などに関係することがわかってきました。
専門家インタビュー→トマト農家に電話インタビューする
農家や研究者など、協力してくれる人にインタビューしていきます。知り合い農家にインタビューします。
ケーススタディ→おじいちゃんとお父さんの比較
ある畑のトマトは甘いですが、別のトマトは酸っぱいです。成功例、失敗例として二つの畑を調査します。
※Let’s Do箇条書きシート
授業中に調べたことを書き出すときに使うことができます。共有すれば、みんなの調べたことを見て刺激をもらえます。
今度は集めた情報を整理して、トマトの味に影響を与える要因を特定していきます。
要因の分類
収集した情報を基に、味に影響を与える要因を土、日当たり、水やりなどに分類します。
関連性の分析
各要因がトマトの味にどのように影響するかを分析し、重要な要因を特定します。カリさんは、日当たりがトマトの甘さにどう影響するかを分析することにしました。
※Tの文字を書いて、思いつくことを左右に書いて比較することで、違いや共通点を見つけやすくなります。
さらにトマトの味に最も影響を与える要因について仮説を立てます。 まとめと表現では、考えたこと、見つけたことを他者と共有するのが目的です。ワークシートや動画を作るなど、いろんな表現方法があります。
仮説の立案
カリさんは「有機肥料を使用するとトマトの味がより甘くなる」という仮説や、「日照時間が長いほどトマトの風味が豊かになる」という仮説を立てます。
仮説の裏付け
本やインタビューから得た情報を基に、仮説を支持する証拠を整理します。
収集した情報と分析結果を整理し、仮説をベースに結論を導き出します。
データの整理
収集したデータを表やグラフにまとめ、分析結果をビジュアルで表現します。
レポート作成
課題設定から情報収集、分析、仮説の立案までの流れと発見したことをレポートにします。
プレゼンテーション
友達や先生に対して、発見したことや分析結果をプレゼンテーション形式で発表します。
※Let’s Do調べものシート
調べるきっかけや用意した道具や資料について、フォーマットに沿って書いていくことができます。
先生に振り返りシートをもらって、探究学習を振り返り、成功点、改善点、次回へ生かすこと、まとめなどを書きます。
成功点 情報収集がうまくいった、発表したら質問がたくさんきた、などの成功点を書く。
改善点 スピーチの時の声が小さい、締め切りまでの時間管理が不十分だったことなど書く。
次回への応用 次回の探究活動にどう活かすか、考えて書く。
まとめや感想 人に言われたことや自分で感じたこと、どんなことに興味を持ったなどを書く。
振り返りを行うことで「次の課題ではもっと上手に表現したい」という気持ちも生まれます。
トマトだけでなく植物に興味をもち、以下のような動画を追加で見て、学びを深めることもできます。
食事バランスを見たら、「トマトはどのようにして食事のバランスを整えるのに役立つのかしら?」と思うようになり、地球温暖化を見たら「地球温暖化がトマト栽培にどのような影響を与えているのかしら?」と考えるようになります。トマトへの好奇心が、探究心を育てることにつながります。