プロジェクトベース型、課題解決型、どちらのアプローチで探究学習をするにも、「子どもが課題を設定し(最初は先生が提案し)、情報を集め、分析し、結果を発表する」という4つのプロセスは同じです。
ピンクで囲ったプロセス部分を拡大して、詳しく見ていきましょう。
講義型の学びはインプット中心ですが、探究型の学びでは、得た情報を分析して、自分なりの言葉や表現方法でアウトプットアウトプットすることが重要となります。また4つのプロセスを踏むだけでなく、振り返りを行うことで、新たな課題へと繋ぐことができます。
今回は小学4年生で、探究学習をはじめたばかり、という設定です。Trevor Mackenzie先生のその2 管理型探究 (Controlled Inquiry)探究学習を行います。
先生が題材となるテーマや問いの候補を提案する
ワークシートを選んだり表現方法を提案してナビゲートする
子どもたちは小学1年生の時の体験学習でトマトを作って触れたことがあるので、「トマトの栽培」をテーマに探究学習を行ってもらうことにしました。児童のカリさんも、自分が作ったトマトが美味しかったことを覚えています。
① 課題の設定をする
まずは先生から問いを提案します。「どの県がトマトを一番生産しているか?消費しているか?」などは、探せば答えが見つかる問いです。一方探究学習を行うには「答えのない問い」探しが重要です。先生は子どもたちに、課題を3つ与えて、一つを選ぶように指示しました。
課題1)トマトの味を左右する要因は何だろう?
課題2)トマトの栽培において、自然肥料と人工肥料のどちらがおいしくなるのか?
課題3)トマト栽培において、最も有効で安全な病害虫対策は何かしら?
カリさんの場合、お父さんがトマトの栽培が上手で、宿題を助けてくれそうなので、A)の「トマトの味を左右する要因は何か?」を課題に選ぶことにしました。
探究学習のタイプ別課題の設定
<一斉探究>
低学年の場合は、クラス全体が「トマトの成長過程を絵日記に描こう」と同じ課題を全員に与えることもできます。
<指導型探究>
探究力がついてきたら「トマトの栽培と社会問題を組み合わせた候補から選びましょう」ということも可能です。
課題1)「トマトの栽培と気候変動の影響」→気候変動がトマトの生育に与える影響と適応策を探る。
課題2)「都市農業におけるトマト栽培の可能性」→屋上農園やコミュニティガーデンでのトマト栽培のメリットと課題を調査する。
課題3)「遺伝子組み換えトマトの倫理的・経済的影響」→遺伝子組み換えトマトの栽培が環境、経済、社会に与える影響を探る。
<自由形探究>
トマト栽培と社会問題の事例を紹介し、「今度はトマトに限らず、自分が興味あることで課題を考えましょう」ということが可能です。
興味と関心があることから、具体的な問いを設定してもらい、情報収集と仮説設定の方法を教え、評価基準を事前に伝えることで、子どもは主体的に探究課題を設定できるようになります。
<課題の設定にを助けるワークシート>
※KWLシート
課題を選ぶ、あるいは発見するために、KWLシートを活用するのはおすすめです。「トマトを栽培する前、もっと知りたいと思ったこと、発見したこと」などを書き出してもらうことで、子ども自身が取り組みたい課題が見つかりやすくなります。
② 情報の収集をする
カリさんの目標は「トマトの味に影響を与える可能性」についての情報を収集することです。
文献調査→図書館、タブレットで行う
トマト栽培に関する本、インターネット記事を調べていきます。いろいろ調べていくと、味に関係することは土の種類、水やりの頻度、日照時間などに関係することがわかってきました。
専門家インタビュー→トマト農家に電話インタビューする
農家や研究者など、協力してくれる人にインタビューしていきます。カリさんのお父さんの知り合い農家にインタビューします。
ケーススタディ→おじいちゃんとお父さんの比較
お父さんの畑のトマトは甘いですが、おじいちゃんのトマトは酸っぱいです。成功例、失敗例として二人の畑を調査します。
<情報の収集で使えるワークシート>
※Let’s Do箇条書きシート
授業中に調べたことを書き出すときに使うことができます。共有すれば、みんなの調べたことを見て刺激をもらえます。
③ 情報の整理・分析をする
カリさんは集めた情報を整理して、トマトの味に影響を与える要因を特定していきます。
要因の分類
収集した情報を基に、味に影響を与える要因を土、日当たり、水やりなどに分類します。
関連性の分析
各要因がトマトの味にどのように影響するかを分析し、重要な要因を特定します。カリさんは、日当たりがトマトの甘さにどう影響するかを分析することにしました。
<情報の整理・分析で使えるワークシート>
※Tの文字を書いて、思いつくことを左右に書いて比較することで、違いや共通点を見つけやすくなります。
④結果のまとめと表現をする
カリさんはトマトの味に最も影響を与える要因について仮説を立てます。 まとめと表現では、考えたこと、見つけたことを他者と共有するのが目的です。ワークシートや動画を作るなど、いろんな表現方法があります。
仮説の立案
カリさんは「有機肥料を使用するとトマトの味がより甘くなる」という仮説や、「日照時間が長いほどトマトの風味が豊かになる」という仮説を立てます。
仮説の裏付け
本やインタビューから得た情報を基に、仮説を支持する証拠を整理します。
収集した情報と分析結果を整理し、仮説をベースに結論を導き出します。
データの整理
収集したデータを表やグラフにまとめ、分析結果をビジュアルで表現します。
レポート作成
課題設定から情報収集、分析、仮説の立案までの流れと発見したことをレポートにします。
プレゼンテーション
友達や先生に対して、発見したことや分析結果をプレゼンテーション形式で発表します。
<まとめと表現で使えるワークシート>
※Let’s Do調べものシート
調べるきっかけや用意した道具や資料について、フォーマットに沿って書いていくことができます。
カリさんはこちらのシートを、みんなの前でプレゼンし、発見したことをシェアしました。
振り返り(リフレクション)
先生に振り返りシートをもらって、カリさんは探究学習を振り返り、成功点、改善点、次回へ生かすこと、まとめなどを書きます。
成功点 情報収集がうまくいった、発表したら質問がたくさんきた、などの成功点を書く。
改善点 スピーチの時の声が小さい、締め切りまでの時間管理が不十分だったことなど書く。
次回への応用 次回の探究活動にどう活かすか、考えて書く。
まとめや感想 人に言われたことや自分で感じたこと、どんなことに興味を持ったなどを書く。
振り返りを行うことで「次の課題ではもっと上手に表現したい」という気持ちも生まれます。
カリさんはトマトだけでなく植物に興味をもち、以下のような動画を追加で見て、学びを深めました。
食事バランスを見たら、「トマトはどのようにして食事のバランスを整えるのに役立つのかしら?」と思うようになり、地球温暖化を見たら「地球温暖化がトマト栽培にどのような影響を与えているのかしら?」と考える、調べたりまとめるようになり、世界の食料問題にまで興味を持つようになりました。小さなプチトマトへの好奇心が、カリさんの大きな探究心を育てたのです。